コマ3.漂流教室.umezu.半魚文庫

参考・石森章太郎(石ノ森章太郎)のコマ構成


楳図以外で、天才と言えば、石森である。絵自体は、ころころした感じが実はあまり好きに慣れないが、コマ構成に関しては、ほんとうに大天才である。ストーリーや設定はそれなりにかなりスゴイのだが、楳図の洞察と展開にはかなわないだろう。しかし、コマ構成に関しては、ほんとうに孤高の大天才である。

以下、いくつかあげたが、これらにかぎらず、60年代末から70年代当初にかけての石森は、あらゆるコマ構成ですごい。同郷人の大友克洋にしたって、(絵の「上手さ」で補っている分)、ここまでのコマ割りは出来ない(しない)。マンガの到達点として、以下、掲げてみる。


石森自身は「カットバック」と説明しているが、クリスチャン・メッツ式に言えば、交替連辞(カット・バック)でなく、並行連辞(パラレル・アクション)に近い。(『マンガ家入門』のなかの『龍神沼』)


タテぶち抜きのコマ(『闇の嵐』)    これはパクリではないか。工夫としては、パラレル・アクションを使ってある。
(手塚治虫『日だまりの樹』)
  

風とフラッシュのカットバックから、黒ベタの大ゴマへの落差。(『仮面ライダー』)


アップ、ミドルショットなどの配分は完璧だろう。住基ネット(右頁4コマ目のネームの国民総背番号制)も仮面ライダーにやっつけてほしい。(『仮面ライダー』)


戦闘シーンを不等辺四角形でモンタージュし、そこにかぶさるオノマトペ。動作を局面的に見せている(『イナズマン』)。地味だが、職人業的にうまい。


2コマ目へは写軸を越えるが、極端な俯瞰からゆえ気にならない。
2コマ目以後も石森ならではの幾何学的なコマ割りで、長ゼリフも飽きさせない。

(『ロボット刑事K』)


単純ゆえに大胆な4段割りで、静と動とを対比的に表現する。これを逆に、このままアニメにしたらチープな映像になってしまうだろう(『サイボーグ009』)。そこが、アニメと漫画が違う、不思議なところ。

このリズムは、赤塚不二夫も結構使うが、なぜかギャグになる。(『レッツラゴン』)。これもフシギ。


あらま凡庸な……と思ったら(左頁1〜3コマ目)、009は加速中。やはり動と静。(『サイボーグ009』)


動線とコマ枠が一体化している。そして、カットバック(落下中のライダーと、ライダーの視界)を、因数分解したような(セリー毎に集約している)コマ構成。加速落下のみならず、ゆるやかにスピンしているのに気付きましたか?

(『仮面ライダー』)


なお、ついでに。いじってみたが、これだと魅力半減。


大ゴマに点景としての人物。これも石森は多用するが、ともかくすごいコマ構成。
びっくりして前に戻って確かめるのでなく、じっくり最初から絵を理解して読み進めたい。

(『ロボット刑事K』)


マンガにとって、絵画、小説、絵物語、絵本、映画、動画(アニメ)等は、隣接的な芸術形式である。しかし、隣接とは、同じでないということである。マンガと、アニメ・映画と、どちらが優れた表現方法か?などという議論は、ほとんど虚しい議論だろうが、しかしそれぞれの技法的側面を分析することは意味のあることだろう。また、マンガを愛するが故に、他の表現形式よりも優れているのだ、と主張すること自体は、技法分析を元にしたものである場合にかぎって、許されるだろうし、読んで不快なものでも無い(愛することは悪い事ではない)。

一般に、マンガは、映画の様々な技法をヒントにして、そのマンガの表現技法を磨いて来た面がある。初期の手塚マンガの手法は「映画的」であるかどうか、また手塚独自のものであったかどか、等に関しては、十分な議論が必要で安易には結論出来ないにせよ、マンガが映画をヒントにしてきたという大きな事実は認められて良いだろう。石森『マンガ家入門』にも、映画に関連付けた説明は多数散見される。

一般にマンガでは「動き」を表現することが至上のように言われ、この時、映画・アニメなどの動画がその手本とされる。また、カットバック、ズームアップ等の映画の技法は、「世界をフレームによって切り取る(分節する)」という絵画系芸術に共通した基本スタンスであるし、そして、動画が先導してきたものであった。

マンガと、動画類との相違点のひとつは、フレームのタテヨコ比率が一定かどうかである。またさらには、長方形である必要があるかどうか、である。言いかえれば、フレームの存在を、どこまで自覚化し方法化するか、である(映画でも勿論自覚しているが、マンガのほうが自在な分、より自覚的。夏目房之介はこれを「圧縮と開放」と呼ぶ。)

上にあげた石森の諸例で感じられることは、人物の配置・対比などを表現する際に、この伸縮するフレームという性格を知悉して使いこなしている、という点である。構図で見せるのである。また、マンガだと、映画では物理的に不可能なアングルからの絵が手軽に描ける(ま、アニメやCGでも出来るが)。

ついで、マンガの最大の特徴とは、フレームの自由さを根底で支えている、並存性にある。1コマ1コマを1頁・2頁に配置することで、見開きで、美しいコマ構成を創り出している、という点である。コマは頁や見開きに並存される。これがマンガの最大の特徴である。


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