◆伝都賀庭鐘作、異端の知識小説

垣根草(かきねぐさ)

  • 作者:菅翁(人物未詳)
  • 成立年代:明和七年六月刊
  • 解題(由来、成立事情など)
    作者は、序文に「菅翁某誌」とあるのみだが、木村黙老『京摂戯作者考』の近路行者(都賀庭鐘)の項に「英双紙、繁々夜話、垣根草等、数部の佳作あり」と記されて以来、前期読本の先駆者都賀庭鐘の作と考えられてきた。が、今日では諸証をもって否定されている。尤も、内容面においては、平安・源平・南北朝など日本の古典・歴史を舞台に、論述・考証を加え、歴史論を展開し、中国小説の換骨脱胎を行い、異界・異人との遭遇を描いてあり、庭鐘の中後期の作品『繁野話』『莠句冊』など、和漢の知識がない読者にはそのストーリーすら満足に理解出来ないほどに高踏的知識的な作風の影響を上手に受けた佳品と言えよう。
  • 活字本:日本名著全集『怪談名作集』

◆獄門の露と消えた過激なルポライター

近世江都著聞集(きんせいえどちょもんじゅう)

  • 作者:馬場文耕
  • 成立年代:宝暦七年
  • 解題(由来、成立事情など):
    馬場文耕は、江戸の講釈師。宝暦八年、当時吟味中の金森騒動を高座に載せ幕政を批判したため、獄門に処せられた。著作は十数点を数え、将軍・旗本などの実名での品評、巷間の噂話等、当時では板行御法度の内容が多く、何れも写本。本作は、巷間の風聞に上った人物の来歴や事件を究明したもの。八百屋お七、白子屋お熊が大きく扱われ、また遊女では薄雲、奥州、玉琴、歌舞伎役者では初世市川團十郎、山中平九郎、瀬川路考など、他に、絵師英一蝶、歌舞妓伝介、佐野次郎左衛門と遊女八橋、など記述の根拠を明示した上で記す。何れも情報源は豊富で、収集・流布には貸本屋との提携が序文より知れ、また火付盗賊改中山勘解由の日記、公の記録までも用いている。
  • 活字本:『燕石十種』五巻など。

◆怪談落語の濫觴は笑いと表裏の恐怖

怪談桂乃河浪(かいだんかつらのかわなみ)


◆因果応報譚の大集成

善悪報ばなし(ぜんあくむくいばなし)

  • 作者:未詳
  • 成立年代:元禄年中刊行か
  • 解題(由来、成立事情など):
    五巻五冊の仮名草子。全六十一話の怪談集。序文には「就中寛永より以来、諸国在々に人の善悪の報を聞書にし」と見え、各話とも時と場所などを記し、近時の実話を聞書きしたという体裁をとる。各話の場所・地域には近畿が多く、中国九州に及び、諸国咄的な傾向がある。また内容は、題名通り仏教説話的な因果応報譚で、例えば、前世で借りっぱなしだった米銭を鬼がその子供に生れて取返しにくる(一の一)、母親を殺した親不孝の三兄弟が雷に打たれ半人半獣の異形に変る(一の四)、等。既に『因果物語』『御伽物語』『奇異雑談集』など仮名草子怪談集が板行され、その影響下に成立した。
  • 活字本:近世文芸資料『近世怪異小説』。また、岩波文庫『江戸怪談集(上)』に二十四話が抄出。

◆読本作家に憧れた若き「書淫」

唐錦(からにしき)

  • 作者:伊丹椿園
  • 成立年代:安永九年正月刊
  • 解題(由来、成立事情など):
    伊丹椿園は読本作家。実父は伊丹俳壇の第一人者坂上蜂房で、伊丹屈指の酒造家。椿園は二十歳頃に、銘酒剣菱の醸造元として有名な伊丹随一の津国屋の養嗣子となる。しかし、文人でもあった実父の影響で、読書、奇書収集、著述に耽り、書淫と自称し、特に舶来の中国小説を好み、当時興隆した前期読本の執筆に手を染め、家業を疎かにした。結果、安永十年に養家から追われ、書物を扱わないとの改心の一札を記し詫びをいれたが、同年三十歳ほどの若さで死んだ。本書は、都賀庭鐘や上田秋成らに憧れて執筆した前期読本、短編怪談集の一つで、四巻四冊全九話。代表作とされるが、年齢的な限界もあろう、文体・構成・学識ともに庭鐘や秋成に較べアマチュア的である。
  • 活字本:日本名著全集『怪談名作集』


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初出 :『日本奇書偽書異端書大鑑』
新人物往来社『別冊歴史読本』(1994年 4月)


(c)高橋明彦 1997年8月10日 HTMLによる公開