Thursday, June 25, 2009

The Slope of Dysfunction 機能不全という下り坂

by Dmitry Orlov (訳: M. Ohtani at Kanazawa College of Art

 

多分あなたはピークオイルのことを聴いているでしょう?ピークオイルについて、今やほとんどの人々が聴いているわけで、世界の原油生産量がピークになる可能性を拒絶したいような仕事に就いている人々でさえも知っていますよね。誰も彼もにピークオイルがいくらか馴染んできた今こそ、ピークオイルを再検討するには打って付けの頃合いでしょう。さてさて、ピークオイルの理論家たちが色付けしたシナリオは、現実的な話でしょうか、それとも希望的観測なのでしょうか?

 

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上のグラフは、幾分古いのですが、典型的なピークオイルのグラフです。ぼくがこれを選んだのは、きれいな図だし、典型的なピークオイルのメッセージを運んでいるからです。世界の原油生産量(天然ガスも含む)は、そびえ立つようなピークに至り、数十年かけて、ゆるやかに下っていく、というものです。2050年辺りには今の半分以下の原油生産量になりそうですね。このこと自体、依然として強い印象を与える数値的指標ですが、原油が半分になるのにあわせて生活を改めるのに数十年残されているということでもあり、必ずしも大きな問題だとは思われていませんよね。ライトレールや電気自動車、高断熱の建物などでエネルギー効率を改善しつつ、風力、太陽光、バイオマス、原子力といったエネルギー技術を取り入れるならば、石油減耗で生じるギャップを埋め合わせることができるんじゃないか、ということにしているわけです。

 

ところで、ピークオイルの理論家たちは、すでにピークに達した産油国のデータにもとづいて計算しています。たとえば、アメリカ合衆国は1970年にピークに達しましたし、産油国の多くは今、ピークを過ぎて、理論家たちに正確なデータを供しています。けれども彼らは、ぼくには重要だと思われる一つのことを見落としているように思われるのです。産油国がピークに達し、十分な原油をもはや自国内で調達できなくなったとき、産油国は何をするか、ということです。もちろん、産油国は輸入に転じます。けれども、産油国が輸入に転じるのは、産油国のローカル・ピークがグローバル・ピークの前ならば、という話です。グローバル・ピークの後には、輸入できなくなるのです。したがって、ローカル・ピークの類推としてグローバル・ピークを考えることは、的外れな話になるのです。

 

さて、産油国が原油生産の減少を埋め合わせるために輸入できなくなったとき、何が起こるのでしょうか?そのシナリオを考える上で格好の先例があります。ソビエト連邦崩壊後の旧ソビエトの原油生産です。その原油生産量は1987年から1996年までに実に43%も減少したのです。ですが、外国から投資を呼び込み、外国から技術移転を進めたことによって、原油生産の減少が止まり、増加に転じたというわけです。(Source: Marek Kolodziej and Doug Reynolds, ASPO Workshop, Lisbon, Portugal, May 19. 2005).

 

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ソビエト崩壊時、原油生産がいかに急低下したかは覚えておくべきことかと思います。1990年代半ばになって、ようやく原油生産の減少が止まったのですが、旧ソビエトは、経済的に隔離されていたために原油生産の急低下が続いたのです。このようなデータにもとづいて、Kolodziej Reynoldsは興味深い結論を引き出しました。先ず、原油生産のクラッシュがソビエト連邦の国内総生産の崩壊に先んじて起こった、ということです。両者のタイム・ラグには因果関係があり、崩壊の激しさがその因果関係から導かれたことは、十分なほど明白でした。つまるところ、オイル・クラッシュが経済の崩壊を導いたわけです。他方、石炭と天然ガスの生産もまた崩壊しましたが、これらはGDPが崩壊した後のことでした。ここでも再び、経済の崩壊が石炭と天然ガス生産を崩壊に導いたと言えるほどに、十分なタイム・ラグがありました。

 

実際問題として、上のような状況の中で経済と社会に何が起こるのでしょうか?原油供給が不足すると共に、工業生産は急落し、経済が行き詰まり、債務の悪化によって金融危機が発生するでしょう。次いで、需要の低下と資金不足によって商業部門が危機を迎えますね。すると、政府の歳入も減って、政治的な崩壊に至るのではないでしょうか。さらに、失業と犯罪の増加によって社会も崩壊しそうです。このようなことを考えた後ならば、油田に行ってさらなる原油を採掘しようみたいな、あなたやあなたの友人の考えは、むしろ常軌を逸した考えのように思えてくるのではないでしょうか。むしろ原油生産はゼロへと向かうのではないでしょうか。

 

グローバル・ピークオイルは、地球全体が原油不足だからといって輸入することが出来ないという点で、すべてのローカル・ピークとは異なる現象であり、地球規模での経済の崩壊を帰結すると言わざるを得ないわけです。経済が崩壊するや、急速に地球規模で原油生産のクラッシュを導き、工業経済を壊滅させるのでしょう。

 

現在の石油輸出国は、原油生産を国営化して、独裁主義を採用して、騒動を鎮圧できるように軍国化するならば、石油の流れを維持することが出来るかもしれません。ですが、現代の原油生産は技術的にも複雑なビジネスです。もはやイージー・オイルはなくなったのです。油田は施設・設備を点検修理しなければなりませんし、輸送システムはグローバル化していて、極めて複雑ですね。世界経済のどこか一部への衝撃が、世界全体を攪乱するわけです。もっとも、いくつかの国々は燃料によって賄われる軍隊を、装備が老朽化するまでは温存し続けることができるとは思いますがね。

 

世界の原油生産は、いずれピークに達し、2050年辺りまで数十年かけて、ゆっくりと減少して原油生産量が今の半分以下になる、という聖典と化したピークオイル・シナリオは如何なものでしょうか?これまでは希望的ビジョンを表明することに熱心だったのではないかと、ぼくは言いたいわけです。今やぼくは、旧来のピークオイル・シナリオはエイリアンの介入があってこそ可能なシナリオだと信じるようになっています。ロシアの原油生産が外国人によって救済されたように、地球人の原油生産は宇宙からのエイリアンによって救済されねばならないのです。下のグラフは、アップデートされたピークオイルのスライドです。

 

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エイリアンの介入という仮定に依拠するためのいかなるデータをも持ち合わせていないのですが、我々は宇宙の原油生産がピークに至っていないことを想定しなければなりません。さらに、星間を運行する輸送船がタイミング良く地球へと原油を運び込んで、地球経済の崩壊前にこの惑星の原油生産の下落分を埋め合わせる、ということを想定しなければならないでしょう。しかしながら、地球には宇宙産原油との交換に供するための資源が乏しいわけですから、とりあえず、エイリアンたちがブリオッシュ・ア・テット(註:フランス菓子)のレシピと原油との交換に気前よく応じてくれることを祈ることにしましょう。

 

 

 

 

訳者補足:

D.B. Reynolds & M. Kolodziej 論文要旨より

「興味深いことは、アメリカの原油生産量は1970年にピークになったが、ドルがポスト・ブレトン=ウッズ体制下の基軸通貨だったために、やりくりする方法を問題なく輸入できた、ということだ。一方、ソビエトは、商品との交換のために自国通貨を諸外国に対して用いるシニョレッジ特権を持っていなかった。そのため、原油生産量がピークに達するや、ソビエトの経済システムは石油不足に相応して衰退するよりほかなかった。」

 

財務省貿易統計によれば、2008年の日本の対中東貿易は、輸出35083億円、輸入173511億円(うち98.4%を鉱物性燃料が占める)で、138427億円の貿易赤字。この貿易不均衡は、ドルが崩壊したならば、日本のエネルギー基盤はどうなるのか、という疑問を投げ掛ける。