国際的芸術家滞在制作事業(アーティストインレジデンス)アルベルトがルッティ
国際的芸術家滞在制作事業実行委員会(金沢美術工芸大学、金沢21世紀美術館建設事務局)
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 金沢美術工芸大学は、めざましい活動によって国際的に注目されている芸術家を毎年一名招聘し、学内で制作を依頼する国際的芸術家滞在制度(アーティスト・イン・レジデンス)を数年前から実施している。平成13年度からこの制度は、金沢21世紀美術館建設事務局と共同でおこなうこととなり、その最初の作家としてイタリアからアルベルト・ガルッティさんが招かれた。

 これまで美大が招聘したファブリス・イベールやアニッシュ・カプーアなどと比べると、ガルッティさんの仕事は、かなり異なっている。イベールやカプーアが大学の構内において、学生たちとの共同作業で、何等かのモノとしての作品を制作したのに対して、ガルッティさんは、まず第一に、学内でつくろうとはしない。自分が計画していることの打合せを学生たちと教室でやり、それが終るとただちに学生と一緒に金沢の市内へでかけて、街を歩き、観察し、そしてできるだけ多くの階層や職業の人びとと話し合うのである。そして第二に、ガルッティさんは形ある実体としてのモノをつくることを制作の目的とはしていない。日常のごくありふれた都市の景観の一部を、ほんのすこし変えることによって、さりげなくあらたなメッセージを通りがかりの市民たちに伝達しようとするのである。しかもガルッティさんは、その計画の方法を、街を歩きまわり、多くの市民たちとの対話をつうじて発見しようとする。

 都市とそこに生きる人びとの生活の日常にあくまで密着したこのような表現をつうじて、その作品は、ごくささやかな都市の相貌の転換であるにもかかわらず、見る人の内面に大きな感動と慰めを呼び起さずにはおかないのである。

 今回のプロジェクトでは、ガルッティさんは、まず金沢市の中心部を調査した結果、金沢21世紀美術館の建設が予定されている旧金沢大学付属学校跡地を発表の場所として指定した。そしてこの広大な空地の一部に面して建っている民家や商店の外壁にいくつかの照明を取り付け、内部で人が動くとセンサーによって一定時間点灯するという「作品」をつくり上げた。美術館建設地に面したところは、多くの家々の裏側に当り、昼間でも余り目立たないが、夜になるとほとんど真っ暗闇である。そこに灯が点滅することによって、見る人は、たしかにその家々に人が居て動いていることを知るが、しかしここから発信されているのはそれだけではない。これらの小さないくつかのひかりは、まさにそこに人間が懸命に生きているということの真実をあらためてわれわれに告げ、そしてその真実の重みによってわれわれを感動させるのである。

 今回の金沢におけるプロジェクトは、ガルッティさんがゲントの「オーヴァー・ジ・エッジズ」展やイスタンブール・ビエンナーレで発表した、新生児が病院で生まれるたびに街灯や橋梁の灯が点灯する作品群の延長線上にあるものである。しかし金沢の場合は、ごく普通の人びとの何でもない日常の行為を対象としているだけに、プロジェクトが内包する意味はより深く、より広いと私は思う。また今回のアーティスト・イン・レジデンスでとりわけ大きな収穫だったのは、それがたんに美大の学生たちだけでなく、一般の市民たちを巻き込んだ豊かな力をもつことができたということである。市民たちの心にちいさな灯が投げかけた光芒は、やがて波紋のように拡がり、大きな連帯の輪をつくるであろう。

 最後になったが、ガルッティさんのこのプロジェクトのために、美術館建設予定地周辺の住民のかたがたから同意を得るべく説得に当られた、金沢21世紀美術館の学芸員及び金沢美大の学生諸君のたゆみない努力に対して、心からお礼を申しあげたい。