金沢美術工芸大学

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令和7年度 油画専攻 入試合格作品

採点・評価基準

実技試験

提示されたモチーフの観察に基づいて、形態・立体感を表現する力。

作品提出

提示された課題に基づいて、色彩・実在感を表現する力。

面  接

提出する作品について分かりやすく伝える力。

実技試験

木炭デッサン または 鉛筆デッサン

試験時間/7時間

【問題】
石膏像ゲタ胸像をデッサンしなさい。背景の有無は自由とするが、試験用紙は縦位置で使用すること。

<用紙> 木炭紙 MBM(特厚口)、TMKポスター(木炭紙と同じ大きさ)

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 石膏デッサンは途中までのプロセスは似ていても、その先には描く人によって色々な表現があります。大切なことは、構図、プロポーション、その上でムーブメントをとらえた立体感、空間感になります。さらに完成に向けて意識することは、光に対して多様な方向性と距離感の面を持つ石膏は、厳密には同じ明度はなく、明度の調子が連なって形態になっていることを実感し、面を意識しながらその明度の連なりを輪郭まで見極めることが充実したデッサンにつながります。
 ここに紹介する5点は入試で求められるそれぞれの観察位置から効果的な構図とプロポーション、立体感、ムーブメント、空間感をしっかり表現しようと描かれたものです。ここではその上で個々の作品の特徴や良さについて解説します。

この作品は力強く自信をもった輪郭線が大変魅力的です。また背景も含め大らかできれいな木炭の調子も感じられます。その2つの効果がゲタの体の張と頭部の傾きをうまく捉えています。ただその調子のグラデーションの変化が少しおおざっぱに感じます。制作の次の段階である像の細部を形作る細かな面の移ろいを、木炭の細やかなトーンの変化に呼応して描きつつ、それに応じて輪郭線を再度調整すれば、より迫力と存在感が増した作品になったとおもわれます。

背景を描くことによって石膏像の持つ白い美しさを大事にしつつ、体の大きな張のボリューム感を意識しながら、襞や頭部の重量感をデリケートなトーンの変化を用いながらも力強く描き込んでいます。形が輪郭で弱く消えてなくなるのではなく、その周り込みまで見極め、描き切る事で、正面の動きのない単調な構図が前後関係の動きがある表現として成立しています。

この作品は鉛筆で制作されています。実技試験では木炭紙か鉛筆用紙のどちらかをを選べます。鉛筆デッサンは木炭のように大きく形態を捉える上で、時には鉛筆を寝かせて使うことがあると思いますが、本来は線を重ねることでトーンの変化を表現していきます。

木炭との違いは線を重ねて調子を描くことで、特に暗部が木炭よりも輝いて見える事がありますが、油断すると逆に明部の存在感が弱々しく見えることがあります。一つ一つの線を重ね続けて面を作り、そのつながりで形を削り出す作業は、ある意味木炭よりも難しい部分もあるかもしれませんが、完成した時に感じる緻密な形態の力強さと説得力は大変魅力があると思います。

この作品は背景をあえて暗めに強調することで、白い石膏の美しさを劇的に表現しています。輪郭線に接する左右の明暗の扱いと、それに呼応させて壁の色調を変化させることで、石膏の白さの美しさが表現できています。また輪郭線自体の前後関係も意識して描き分けることで石膏を取り巻く空間も感じます。おそらく後列からの、頭部がほぼ真横に見える位置のため、立体感を表現することが比較的難しかったと思いますし、白さを強調するあまりやや体の手前側の服の襞が白飛びしてしまい、大きな石膏像の塊になり切っていませんが、細部まで色調をデリケートに描き込むことで、石膏の持つ白さの質感を十分に感じさせる魅力的な作品になっています。

この作品は一見すると木炭の白から黒までの色調の幅を使い切っていないように見えます。しかしながら、背景をつけず、木炭紙の目を潰さないようにしながら何度も注意深く重ねて作られた美しい色調が、隣り合う面の色調とデリケートにつながり、形に結び続けられることによって、作品は静謐な印象を与えながらも同時に重厚な存在感を感じさせています。
一般的に画面の中の強い黒や白は劇的な効果を生み出す反面、使い方によっては中間の色調の魅力を減退させることもあります。この作品は劇的な効果を狙わなくても、観察を続けることで引き出される描写と木炭の魅力が出ている作品だと思います。

作品提出

油彩 または アクリル

試験時間/なし

【問題】
あなたの思い入れがあるものを画中に入れて自画像を描きなさい。

自画像が適切な明暗表現によって描かれ、堂々とした量感を備えています。
手元や周囲に配されたカラフルな絵本と、モノトーンの服装との対比が画面に変化とまとまりを与えています。またポイントとなる指の繊細な動きもうまく表現されています。

カラフルなユニフォームの美しさや肌の繊細さを損ねることなく立体感を表現できています。画面全体を澄んだ色調でまとめられているのは筆の扱いやパレットでの混色をとても丁寧に行なっているからでしょう。意欲的な屋外の背景も違和感なく馴染んでいます。

赤い道具入れとジーンズの強い色相対比をシャツの白色がやわらかく受け止め、自然に顔へと視線を誘導しています。さらには画面の右奥に続く空間も上手く表現されており、突き当たりの壁に貼られた習字が視線のゴールとなる構成は見事です。

提出作品の条件にあるとおり「手に持つ物、背景、服装」の全てで、思い入れを存分に表現しています。褐色で画面全体をまとめながらも、牛のタグの黄色やバケツなどの青をさりげなく配することで、生き生きとした絵画空間を生み出しています。

的確な立体感の把握と絵具の筆触によって、人物や物の量感が豊かに表現されています。
影も含めてどの部分も美しいのは、明暗をうまく色彩に置き換えられているからだと思います。おそらくは意図的な壁の色も、自然な対比として馴染んでいます。

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